前回は
「組織開発」という言葉を知らなかったからこそ、目の前のクライアントに向き合い、人材開発なのか組織開発なのか考えずに、両者にまたがるような、あるいはこの範疇に入らないような解決策を考えることができたということを書きました。

一方で、「組織開発」という言葉を知ったからこそできたことや気づいたこともあります。

ここでもう一度おさらいすると、
人材開発とは:「人」を「開発する」こと
 つまり、組織の目標を達成するために、「組織のメンバー個人」に働きかけ、必要な知識・スキル・マインド等を獲得させて、人と組織の変化を導くこと

組織開発とは:「組織」を「開発する」こと
 つまり、組織の目標を達成するために、「組織のメンバーの関係性」に意図的に働きかけ、組織と人の変化を導くこと

ですね。組織開発というのは馴染みがない人も多いかも知れませんが、職場での問題を何かしら見える化し、さまざまなレベルでの対話や外部からの介入により、職場のコミュニケーションを変え、語る言葉を変え、人々の関係性を変えて、目指す姿の達成を導く長期的な取り組み、と思っていただければ良いかと思います。チームビルディングもその一つと言えるかも知れません。

「組織開発」という言葉を知って湧いてきた探究心

前回書いた通り、「あなたがやっていることは組織開発そのものですよ!」と、我が師匠、中原淳先生より指摘をされてからというもの、「組織開発」のつく本や情報を探すようになりました。中原先生はもちろん、日本での研究の第一人者である南山大学の中村和彦先生の著書を読んだり話を聞いたり、自分なりに「組織開発とはなんぞや?」ということを考えるようになりました。

もっとも影響を受けたのは、中原淳先生・中村和彦先生の共著である「組織開発の探究」(ダイヤモンド社)でした。面白すぎて、何度も読みました。そこには、組織開発が生まれた背景や歴史、源流について19世紀半ばまで遡り、誰の、どんな思想が組織開発の発達に影響を与えたのか、ということが書かれていました。

デューイ、フッサール、フロイトなどによる哲学、精神分析学をはじめ、経営学、組織心理学、組織行動論、など、さまざまな思想を取り入れて発展してきていること、そこには集団心理療法の影響が強くあること(=洗脳や依存に注意が必要ということ)や、アメリカの民主主義とダイバーシティの考え方が根底にあることを知りました。

組織開発に関わる論文を読む読書会にも誘われるようになりました。著名な先生方が同席される場にも参加し、実践の上で大変刺激になりました。そんなふうに、「組織開発」を知ってアカデミックな世界を覗くようになり、実践に取り入れられるものを取り入れよう!という姿勢になっていったのです。

人はみな、組織の中に生まれてくる!組織開発は人生そのもの?!

そんな中、ある読書会で、アメリカで「組織開発の母」と言われる組織開発実践者、Billie Alban(1925-2020)(残念ながら日本ではほとんど知られていません)という方について書かれた英語文献について、私が発表する機会がありました。

この女性は、幼い頃から、人種・宗教かかわらず全ての人を受け入れ、「声なき声」に耳を傾け、学生時代には学校の運営に積極的に携わり、老後は自身が住む介護住宅にて住民の声を集めて州法改正を求める運動をするなど、プライベートでも、死ぬまで自分が属する組織をより良いものにするため、活動を続けた人でした。

  • 声なき声に耳を傾けること
  • ステークホルダーは誰かを知り、全てのステークホルダーを「一つの部屋」に入れること
  • どんな人も一人の大人として扱うこと

トップダウンではなく、こういう姿勢こそが人のオーナーシップとコミットメントを引き出し、大きな組織を変えることにつながる、としており、彼女の多くの言葉が私の中に残っています。
Albanに影響を与えたのが組織開発の父(の一人)とも言われるRichard Dick Beckhard(1919-1999)です。Beckhardの言葉にこんな言葉があります。


  • 私たちはみな、組織の中に産まれる。まずは家族。そこでリーダーシップ、コンフリクト、競争、外の世界との関連、計画立案と実行などを学ぶ。

この言葉は私にとって衝撃でした。

私たちはみな、”組織”の中に産まれ、”組織”の中で育ち、”組織”の中で死んでいく。自分の周りの”組織”に働きかけ、良きものにしようと思うことは、すなわち、自分の人生をよくすることなんだ、と思った時、鳥肌が立ちました。

組織開発は私にとって人生を賭けるべきテーマ

組織開発は、私にとって仕事もプライベートも関係なく、人生の大きなテーマとなりました。

・私たちはみな”組織”の中に生まれ、”組織”の中で死んでいく
・身の回りの組織がうまくいくよう働きかけることは自分の人生をよくすること
・そのために、声なき声を聞く
・関わる全てのステークホルダーを一つの部屋に
そして、その根底にある、民主主義とダイバーシティ&インクルージョン。

私自身の過去の経験とも重なり、なぜ自分が組織開発に興味を持ったのか、なぜ私がいつの間にか組織開発の実践にたどり着いていたのか、その理由も全て見えた気がしました。

それからは、家族はもちろん、ビジネスでの場面、コミュニティー活動、現在通っている大学院など、全ての場面において、「どうしたらこの組織が良くなるのか」を考えるようになりました。自分の人生、ひいては関わる人々の人生を豊かにするためです。組織開発は人生そのもの、哲学とも言えます。そして、常日頃その意識を持つことが、組織開発の実践者に求められることだと思うようになりました。

それでもやっぱり組織開発という言葉には引きずられないようにしたい

しかーーーし!!!!!!
前回申し上げたように、ここには危なさもつきまといます。
「組織開発」という言葉を知ってしまうと、そして、そこに熱い思いを持てば持つほど、「組織開発」が良いもので、それこそが全ての解決策だと思ってしまうか可能性があります。

もちろん、組織開発は人が集まって起こるどんな問題に対しても有効ではあるとは思っています。
しかし、クライアントなど目の前の組織に対して、今やるべきことが組織開発なのか、あるいは、別のこと(人材開発や人事制度改革、あるいはその他の取り組み)との組み合わせた方がより効果があるのか、そういうことも冷静に考える必要があります。

さらには、そもそも組織開発というくくりで判断すべきなのか。物事は複雑に、全てのことがお互いに関係し合ってつながっている(ホールシステムである)からこそ、あるほんの小さな部分に着手して変えたら、全体が大きく変わるキッカケになるのではないか。例えば誰かの一言。手渡した一冊の本。人材開発・組織開発と関係もなさそうな取り組み。それが組織開発につながることもあり、あれ?これも組織開発なのか?違うのか?うううむ・・・と考えてしまいます。

いやいや、組織開発なのかorでないのか、とかマジどうでも良くって、大事なことは、目の前の組織が目指す方向に向かって良くなること!

実は今、大学院に通って人材開発・組織開発を学んでいて、日々若干の怖さを感じています。たくさんの言葉を知り、その背景や歴史や理論を学べば学ぶほど、そしてそれが今話題の理論や手法であればあるほど、その部分のみに焦点が当たり、その理論や手法を使いたくなり、そもそもの目的や、現実の世界で起こっていることの全体像が見えなくなりそうだからです。と言えるほど勉強してないだろっ!ていうツッコミを先生たちから受けそうだけど(汗)

だから最後にもう一度。

  • 目の前の世界を見るときは、学んだことをいったん忘れて、現場で何が起こっているのか見ること。その時感じたことを最後まで忘れないこと。
  • 私たちはなんのために学ぶのか。頭でっかちになって知ることに満足するのではなく、目の前の世界を良くするために学ぶのであるということを忘れないこと。
  • 全ては繋がっている。一つの理論・一つの考え方に囚われない。

私が組織開発という言葉を知らなかったからこそできたこと、知ったからこそわかったこと。ずっと大事にしたいな、と思います。

さて、次回は、「人材開発しかやったことないんだけど、組織開発って難しくて・・・」という人たちに贈る、とても簡単な最初の一歩についてお伝えします。
(気が変わらなければ)